ワイルドキャットの脚
ゲームの空戦動画を見てた某氏が、ぼそっと
「なんでF4Fは車輪が翼に付いてないの?」
と聞いてきた日曜日。
咄嗟に
「なんでって...つまりそれは中翼だから...。」
とかもにょもにょ答えたワタシなわけですが、これは話の順番がおかしいし、そもそも「じゃあ何故F4Fは中翼機なのか」という問題には全然答えていない(^_^;)
F4Fの機体レイアウトを語るには、米グラマン社の歴史を紐解く必要があります。
グラマン社は1930年代始め、戦闘機が布張り・複葉・固定脚だった時代に、全金属・複葉・引込脚で太短い胴体を持つFF艦上戦闘機を投入し、成功しました。
航空機の主脚は結構な抵抗になる、飛行中はただただ邪魔な構造物であり、これを飛行中になんとか出来るなら、勿論飛行性能が向上する(だから後にはほぼ全ての航空機が引込脚になる)
で、このFFを改良してF2、拡大発展させてF3Fという感じで次々とずんぐりした引込脚式複葉戦闘機を投入してきたグラマン社ですが、1930年代後半に入っての新型機開発に至っても
「やっぱり慣れたずんぐり胴体の複葉引込脚機でなんとかしたい」
とかゴネて複葉機をいじくり回し続けた結果、他国や他社が続々と送り出してきた新型全金属単葉引込脚機に対し、性能的に対抗できないような事態に陥ってしまった(^_^;)
で、流石のグラマンも事ココに致り
「さすがにもう複葉機がなんとかと言ってる場合じゃないみたい」
ということで、とにかく急げ急げと、急遽複葉戦闘機だった前作F3Fの翼を新開発の単葉に付け替えて作り上げた、急造の単葉機がF4Fの原型。
前述のようにグラマン社の複葉戦闘機は胴体に引込脚を装備(というか、当時の複葉には主脚、つまり機体重を支えられるような強度がなかった)していたのでこの胴体を踏襲したF4Fも胴体脚となり、自慢の引込脚に干渉しないよう単葉を付けたら中翼単葉の飛行機になっちゃった、という順番。
ということで、
「中翼だから胴体脚」
という説明は訂正します。
「胴体脚の胴体を流用して作ったから胴体脚」
が正しい説明。グラマンは自分が発明した胴体引込脚が大好きな時期がありF4Fはその掉尾、でもまぁまぁ正しい(^^;;
このようにF4Fは「急遽でっち上げられたグラマン最初の単葉機」であり、P&W R-1830が良く出来たエンジンだったのでそれなりの性能が出ましたが、最初(というか前作)から単葉機として磨き上げられた三菱の零戦等とやり合うのは、ちょっと厳しいところが有った。
航空機は搭載エンジンの性能とか入手性が致命的に重大で、一生懸命機体を作ったけどエンジンが駄目で全部パー、みたいな話は枚挙にいとまがない。
というか、新規航空機開発失敗の半分以上がエンジン由来、くらいの感じであり、良いエンジンを使うことが出来れば、航空機開発の成功する確率はぐんと上がる。
ただ零戦は性能を求めて最初からあまりにも色々とゴリゴリ削りすぎたふしがあるのに対し、グラマン製の戦闘機は強度不足で困るようなことはなかった→強度の代償である「重量」に起因する性能不足を指摘して責めるのは、ちょっと酷かも(-_-;)
零戦等の日本機は強度を犠牲にして脆く造る、(航空機としてはともかく)「兵器」としてはマイナーな感じの思想で作られており、軍用機として撃たれ振り回されることを前提にしてることとか、実はむしろF4Fのほうが真っ当に近い。
日本機は脆すぎて急降下や急旋回等の機動で結構空中分解するし、後に艦載機のカタパルト射出が検討されるようになると、その構造的な脆弱性が問題になってくる。
まぁ艦載機側の問題が無かったとしても、日本海軍がまともなカタパルトをモノにできたかどうかはかなり怪しい。時期的に油圧カタパルトになると思うけど、日本空母に着艦制動装置を付けてくれた恩人、KYB萱場さんにはそういう経験が無いので(-_-;)
しかし、1923年の関東大震災で研究所が消失。資郎は海軍の技術者になり、油圧や空気圧で甲板上の機器をリモートコントロールする「航空母艦発着艦装置」の実用化を成功させます。
(消失はちょっとおもしろい。多分焼失の誤変換)
「発着艦装置」ってなんだろう? 萱場資郎氏が早い時期に仏式の油圧横索型制動装置を作ってくれたから日本海軍は高着艦速度の単葉機を早期に採用することが出来た(そして制動能力に劣る縦索式を採用した英海軍は長く軽快な複葉機を使い続けることになる)、という話のはずなんだけど、萱場氏は発艦側も開発してたって話なんかな?
開発してましたはともかく、「実用化しました」みたいな話は聞いたことがないような気がする。実際油圧カタパルトを装備した日本空母って居ないし。
伊吹とか、カタパルトが付けばもう少しましな戦力になったと思うけど、カタパルトは鈍速空母から重量級の艦載機を飛ばせられるというメリットが大きい→重巡の大馬力機関を搭載し十分な速力を出せるフネにはあまり意味無いか。
当時の、アキュムレーター(蓄圧器)を使うような油圧式カタパルトだと、次々と迅速な発艦を行える...というほどの射出頻度には多分ならない。発艦滑走距離の短縮が最大のメリット。
そもそも1945年とかになってしまうと、日本海軍にどんな空母がどういうカタチで就役しても、既に空母に載せる飛行機も空母を投入できる戦場も無くなってる時期なのであまり意味はない。もっと早期に、例えば大鷹型空母にカタパルトが付いたら...やっぱあんまり変わりそうな気がしない(^^;;
洋上で対潜哨戒機を飛ばせても、残念ながら大日本帝国には対潜哨戒機に載せる捜索用の電探がない(^^;;
問題は空母よりも艦載機の側に大きいし、もっと言えば日本海軍の用兵思想そのものに問題が大きく、国力の問題はそれ以上に大きい(^_^;) 堀越二郎が頑張って作った零戦は、東郷平八郎と同じくらい後の日本海軍に悪影響を及ぼしているところがある。
そして日本製の着艦制動装置は性能向上の過程で油圧式から電磁ブレーキ式に発展していくので、以後日本海軍の着艦制動装置は、油圧系の技術発展みたいなことにはあんまり関わらない。
あと
「複葉機は翼が短く出来るので航空母艦に沢山積めます」
というのが当初グラマンのゴネてた屁理屈だった→性能向上のためやむなく(笑)単葉化しても機体のコンパクトさ、特に駐機時の翼長が大きくなるのが嫌→結果F4Fの主翼は折りたたみ式になっています。
この主翼折りたたみ機構(最初はパイロットが自分で曲げ伸ばし出来たけど、途中から地上整備員さんに畳んでもらう方式に変わった)はとても良く出来ていて、米空母が沢山艦載機を積んで戦場に持ち込める、結構大きな要因。
F4Fは、こんなにコンパクトに収納することが出来る。飛行性能を最優先とし他を割り切る極端な設計を行った結果、端っこが言い訳のように折れるだけの中途半端極まりない零戦の翼折りたたみ機構とは桁が違う(^_^;)