戦艦(3)

戦艦は水上戦闘を主任務とし、搭載した主砲で敵水上艦を攻撃するための艦種です。

そのため

  • 出来るだけ大きな大砲を
  • 出来るだけ沢山

搭載する事が求められました。

「多数」装備については、巨砲化→砲戦距離の延伸に伴い命中率が低くなった→「沢山撃ち込めばその分当たり易くなるから」という理由が大きいようです。

かつての「接近戦で雨あられ」的なドクトリンとイコールではありませんが、結局砲戦に於いてはタマが当たらないとどうにもならない→常に先制と集中が要求されると言う事なんでしょう。

(まぁ「多数」と言っても10門程度で、かつての数百門とは比ぶべくもありませんけど。また、各砲の照準は一元的に統一されており、砲毎に個別照準していた時代とは射撃方法そのものが異なります。諸元に合わせて数門で「斉射」する射法も英国の発明)

大きな大砲は建造も、保守も、装填も、照準も、なにもかもが大変面倒なんですが、仮想敵に射程距離で上回られちゃった場合、射程距離の外から一方的に射撃を浴びてなにも出来ないまま戦闘力を喪失する可能性すらある→戦艦は否が応でも(射程距離の大きな)巨砲を搭載することになります。

また、集団戦のセオリー

「もっとも脅威度の高い相手から先に始末する」

に基いて、相手はまず味方の戦艦を狙ってくるハズ→主力がすぐに戦闘力を喪失してしまっては以後艦隊戦闘を継続出来なくなるので、必然的に戦艦は

  • 出来るだけ長く戦闘力を維持出来るだけの防御力

も同時に要求される事になりました。

ハンプトン・ローズの海戦(1862年)に於いては艦艇の防御力が砲撃を上回ってましたが、19世紀後半の急激な投射兵器の発達は大幅に矛(大砲)の威力を後押しし、これに対応するための盾(装甲)は一気に厚く、重くなります。

ちょっとだけ防御に手を抜いた「巡洋戦艦」という艦種は、1916年のジュットランド海戦で戦艦の巨弾を上から浴びてタイヘンなことになってしまいます。
主力として戦艦と同様に戦列に参加したところ、主要防護部の装甲を打ち抜かれ、高価な主力艦がいきなり何隻も沈んでしまったのです。

これらのため、戦艦と言う艦種は必然的に巨大化します。搭載する武装と装甲が重い→巨大化しなければ洋上に浮かぶことすらできないんで、もう仕方ない(^_^;)

末期の戦艦では

  • 追撃や離脱を容易にするための機動力(速力)

も要求される事になったため、巨大な大出力発動機(艦艇の速力を決めるもっとも大きなファクターは軸馬力)を搭載した戦艦は、更に巨大化します。

“強力で、高価で、巨大な兵器”戦艦。戦艦の歴史はここに頂点を迎えました。

この兵器を建造出来る国は世界にわずかで、そのわずかな国ですらそう沢山の隻数を建造出来る訳じゃありません。1隻の戦艦を建造し、保有することには非常に大きな、単一戦闘単位であることを越えた「戦略的価値」まであったのです。

が、戦艦はあまりにも「大砲を撃つ」ことに特化しすぎてました。「大砲を撃つ」しか戦闘手段のなかった時代から「大砲を撃つ」以外にも戦闘手段のある時代になると、高価な戦艦を建造し、保有するメリットは徐々に薄れ、デメリットばかりが目立つようになって来ます。

戦艦主砲の射程は最終的に数十キロに達しましたが、航空機による攻撃は数百キロをラクに飛びます。無人航空機とでもいうべきミサイルの射程も、航空機に準じるカタチでどんどん延伸していきます。

終末誘導が可能なこれらの兵器は、艦砲を命中率でも引き離していきました。

かくして戦艦は急速に絶滅し、忘れ去られた兵器の1つに名を連ねちゃうわけです。元々「貧乏人には持てない、非常に高価な兵器」だった戦艦は、「とりあえず持っておく」レベルの兵器としてはあまりにも恐竜的進化を遂げ過ぎていました。