戦艦(1)
知人(←基本的にバイクのヒトで、軍事とかに詳しい訳ではない)と軍艦のハナシをしてたところ、なんか妙なことを言ってるのに気付きました。
「もしかしてキミは、大きな水上戦闘艦が戦艦と思ってないかい??」
「え、違うの?!(^^;;」
違います(^_^;) 「デカいから戦艦」なのではなく、「戦艦だから(仕方なく)デカくなった」ってのが正しいっす。大きな軍艦(warship)は、けして戦艦(battleship)とイコールじゃない。
かつての艦艇はその形状、特に(目立つ)帆の付き方によって分類される事が多かったんすけども、機走が当たり前となってフネから帆が無くなりましたんで、以後の艦艇は建造された目的によって分類されるようになりました。これを「艦種」といいます。
フネの「艦種」には、当然意味があります。
たとえば「戦艦」ってのは、文字通り「戦闘を主任務とすべく建造された」フネ。遠くの植民地まで巡航(cruise)する為のフネだから「巡洋艦(cruiser)」。まとわりつく水雷艇を駆逐するためのフネ(その後、水雷艇の任務も兼ねるようになった)だから「駆逐艦(destroyer)」・・・・等々。
艦砲は(移動上の制限が少ない為)陸上砲よりも早く発達しましたが、水上戦闘では彼我の距離が開きがちなこともあり、割と最近まで全然アテにならない武装でした。
これは初期の大砲、いわゆる「前装型滑腔砲」(砲口から球形のタマをこめる、砲身内がツルツルの大砲)という奴の限界で、
- 大砲自体の精度の不足
- 砲を固定して撃ってもどこに飛ぶか解らない
- 砲弾の精度の不足
- 同上
- 照準精度の不足
- まぁ「正しく」狙えても弾がそっちに飛ぶ保証も無いけど
- 測的手段と精度の不足
- 相手の方位と距離を正確に把握出来ない
- 修正が困難
- 初期の大砲はコロが付いてて、撃つと反動で走る→次は最初からやり直し
等の要因による→これが水上戦闘に
「(どーせ当たらないんだから)とにかく短時間に沢山の弾をバラ撒く」
という戦術を強要してきました。艦砲の目的はずーっと「移乗戦闘時の支援攻撃」→直協支援だったのです。
大砲ってのは基本的に「大きくて弾が重い」ほど遠くまで飛ぶんですが、とおくまで弾を飛ばしてもどうせ当たらない→撃つだけ無駄なうえ、砲弾が重いと再装填の困難が増して発射速度が落ちちゃうんで、結果としてこの時期の「戦闘を主任務とする艦艇」は
「搭載する大砲の大きさよりも大砲の装備数を重視する」
という方針で建造されています。
主力艦ほどデカいんですが、これは主に「複層甲板に砲列をずらりと並べてる」ためで、搭載してる大砲自体は、大艦でも小艦でもそれほど差が無かったり。
勿論一撃で大損害を与えうる大口径砲を(弱点である主尾線方向とかに)装備してる例もありますけど、これも「当たったら」であって、あんまり「当たる事」を期待して装備されてる訳ではないみたい(^_^;)
たとえば、トラファルガー海戦(1805年)に於けるネルソンは、命中率の低下を最小にすべく「接近戦を実施せよ」の信号旗を掲げ、極端な接近戦を挑みました。これはまさに「舷側を接して」の戦闘となり、最終的には移乗白兵戦まで発生してます。1000年以上前の海戦みたいに(^^;;
優勢な、それゆえに長大な単縦陣を形成していたフランス・スペイン連合艦隊に対してネルソンは火力を集中し易い2列縦陣を形成して急接近し、大砲の発射速度(イギリスの大砲のほうが速射向きだった)にモノをいわせてイニシアティブを握りました。この時代の必勝法はこんな感じだったのです。
(そのため、艦隊戦なのに船のマストに配置した狙撃兵が非常に有効に機能すると言うすんごぃ状況に陥り、ネルソンも狙撃で死んじゃいます。揺れる船の上から撃つ小銃と、舷側に装備された大砲の有効射程に差が無いためそんなコトになりました)
イギリス製大砲の速射性能は、主に大砲の点火方式に「火打ち石」を使用してた事によります。この「フリント・ロック」方式はもともとフランス人の発明だったりするんですが、海戦時に量産して艦艇に装備してたのは英国でした。
「(不発率がちと高いけど)ただ打ちつけるだけでいい」簡便なフリント・ロック方式は、コントロールの繊細な火縄(マッチ・ロック)方式を駆逐していきます。