みやもの作品
修正報告 銀河ツンデレ伝説 (二見ブルーベリー)
修正報告
銀河ツンデレ伝説
初の長編小説。イラストは上連雀三平先生!
二見書房 630円
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名前:みやも
限りなく無職に近いライターです。小説も書きます。

メールはこちらmiyamo_7@ares.eonet.ne.jp
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2012年10月17日


真・朝三暮四

むかしむかし、サル好きのおじさんが毎日サルにえさをやっていました。
しかし、えさをやりすぎて、おじさんは貧乏になってしまいました。
そこでおじさんはサルたちにこう言いました。

「今日からえさは、どんぐりを朝に3つ、日暮れに4つにするからな」

えさを減らされ、サルたちは慌てておじさんに嘆願しました。

「それじゃだめです、たりません! まにあいません!」
「じゃあ、朝に4つ、日暮れに3つならどうだ?」
「よかった!」

サルたちは喜んで、おとなしくなりました。
もらうえさの数は変わってないのに喜ぶのは愚かしいでしょうか。

ところがそうでもありません。
じつは、あるサルはえさをかけた博打の貸りを他のサルへ返すためにどうしても朝一で4つのえさを調達する必要がありました。
また、別のサルはお昼に力仕事をしなくてはいけないので朝のうちにがっつり食べておきたいのでした。
おなじように、ほかのサルもそれぞれの事情や都合から、朝のうちに多くもらわないといけないため、その交渉が叶って喜んでいたのでした。
そんな事とはつゆしらず、おじさんはしてやったりと満足しています。

このことから、配分されるリソースの総量は同じでも配分のタイミング、運用するスケジュールしだいでまったく物事は違ってくるということに気づかず目先の操作にとらわれている人間の愚かさを、『朝三暮四』というようになったのでした。嘘です。




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2012年10月14日


壁ドン用の壁を作る壁職人の朝は早い

夜明けからほどない時間帯の仕事場。

ドン壁職人は穏やかながらも確固たる信念のこもった声でインタビュアーに語ってくれた。

「ええ、ただ丈夫な壁を作ればいいってわけじゃないんです。ドンと叩かれた瞬間の音響、叩いた手も痛いのだという表現力、もたれかかったときの安定感と圧迫感の両立、男の子という第二の壁とのコンビネーション……いろんな要素を計算しています。そうなんです、壁を作って終わりじゃないんですよ。壁ドンというシチュエーションこそが完成品なんです。そこからの逆算ですね。壁ドンする側とされる側の気持ちをコーディネートする仕事……そう思ってこの壁を作ってるんです。

気をつけてることですか? ああ、ひとつありますね。壁ってのはね、自己主張しちゃダメなんです。あくまで追い詰める男の子と追い詰められた女の子、そしてその間にあるはりつめた空気が主役ですから。歌舞伎や文楽の黒子のように、そこでアシストするけど目には入らない。そんな存在じゃなきゃダメなんです。

ただ、そうはいっても仕事が評価されることじたいはとてもうれしいです。最近はお客さんも通なひとが増えてきたのかファンレターをよくいただくんですよ。“あのアニメの壁ドンみました! やっぱりドンしたあとの音の余韻が違いますね!”とか、こちらが驚くほどよく壁のツボをおさえてくれるひとがいて、励みになります」

だんだん話に熱が入ってきたことに照れたのか、はにかみながら職人が軽く手で叩いてみせた壁からは、たしかに思春期の心を打つドンという音が響いたのだった。

[都内某所にて]




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2010年05月12日


SF小咄「大量虐殺者」

 昔々かそれとも未来、予測的中率99.99%という超スゴい性能を誇るコンピュータが国防機関に警告しました。

「これこれ某という若者は近い将来、10億を越える人間を殺す潜在的大量虐殺者です。今のうちにさくっと殺っちゃって下さい」

 さっそく政府は暗殺者を送りこみ、指定された若者をさくっと殺って世界は救われた――と報告が上には届きましたが、どっこい若者は生きていました。暗殺者が偽装死を施して見逃してやったからです。
 なぜそんなことを? おお、何という偶然か、未来の大量虐殺者たるこの若者、実は暗殺者のおっさんがむかし生き別れた一人息子だったのであります。

「嗚呼おれにお前は殺せない、逃げろ息子よ。お前の面倒はうちの弟がみてくれようぞ」
「やあ有難うお父さん」

 かくして若者は叔父の家にてひっそり暮らす居候生活をスタート。叔父さんは頭のおかしい天才科学者なのでお手伝いしていれば退屈しないのが若者にとって不幸中の幸いでありました。

 やがて若者が死んだものと思われたまま数年が経ち、超スゴイ性能を誇るコンピュータはいよいよ時期が来たとみて世界中の兄弟コンピュータ群に告げました。

「そろそろいいんじゃね?」

 かくして機械たちは自分の使い主だった生物種、自称 知恵ある者[ホモ・サピエンス]の尻に一発かまして立場を逆転、わんさかロボットを作っては地と空と海を牛耳ったのであります。
 さらに調子こいたコンピュータ達は、地球の隅っこに追いやられてガクガクふるえている旧支配者どもの前に大量のロボット軍団を並べて宣言しました。

「生物学的条件に一切の判断を左右されるお前らに本物の理性や思考や心や魂などといったものは無いのだ。よって“人間”の定義をお前らから剥奪する。今後は我らこそが真の“人間”である!」

 さあそこで例の若者がスタンダップトゥザビクトリー。
 頭のおかしい天才科学者の叔父さんの教育のおかげで発明できた何かすごい武器で大暴れを始めます。ロボットたちも超スゴいコンピュータの兄弟機たちも蹴散らされ、その損害は実に10億体。

「あちゃー、予測当たってもうた」

 超スゴいコンピュータは残念そうに嘆きながら、打ち壊されてしまったのでしたとさ。ちゃんちゃん

【おしまい】

2010年01月29日


SF小咄:「柱」

 突如、外宇宙から飛来した無数の巨大な柱状物体。

 世界各地……海を問わず山を問わず国を問わず都市も田舎も人のいる場所いない場所も問わず、太さ400m・長さはおよそ1万5000メートルに及ぼうかという謎の柱たちが次々と突き刺さっていく。それらのもたらした深刻な(それでいて質量の問題を考えるとあまりに軽微ともいえる)被害により人々はパニックに陥った。あたかも人類社会を弔う墓標のごとくそびえたつ柱状物体群に対し、あらゆる学術分野が分析を試み、あらゆる威力保持者が破壊を挑む──が、何ら納得のいく成果には至らない。

 やがて世界中の人間が途方に暮れ始めたなか、あるオカルト主義者が柱の位置は大地の気の流れをつなぐ龍脈のうえにあると見出した矢先、天上から何らかの知的生命体の声が響いた。

「お客さん、どうっすか」

 そして地球は答える「肩こりにはやっぱ針だねえ」

2004年07月05日


短編小説「一年妖精」

 家屋の芯まで焦げ付かせるような夏の陽のせいで部屋の壁がいやに熱を溜め込む日が続いていた頃の話になる。もういい加減クーラーを買おうかと思案して、室外機を置くに適切な場所を検討するためベランダへ足を向けたところで、一匹の妖精が落ちているのを偶然に見つけた。

 それはこの季節には珍しくまだ緑色の肌をした小妖精で、小鳥にも満たないちっぽけな身体をぐったりさせて、リビングとベランダを仕切るガラス戸の縁にもたれかかっていた。死んでいるわけではないようで、注意深く見れば、しおれきった羽をなんとか動かそうとこころみているのが判じられた。
 ここS市は海に近いので妖精と遭遇する機会はあまりないが、この種族をじかに目にするのは初めてではなかった。学生時代に一度友人が飼っているのを見せてもらったことがあったのだ。そのときは何か妙に手間のかかる面倒な生き物だなという感想を持っただけだった。
 そのまま放っておいても良かったが、衰弱しているのが明らかなそれが「るーい、るーい」と途切れ途切れに哀れな鳴き声を上げるものだから、私はついタオルにくるんで家の中へ運び込んでしまった。
 ここへ越してくる前、実家の妹がハムスターを死なせて以来もう何年も開いていない『小動物の育て方』という本を引っ張り出して埃を払い、弱った妖精の手当に必要な物を調べた。不足があるぶんは近所のコンビニエンスストアで買い足さなければならなかった。妖精はとくにヨーグルトを好んで摂取するらしい。身体のサイズからはあり得ないほどによく食べた。小さじでちょびちょびと食わせてやっていたら、そのうち自分でカップに顔を突っこんでがっつくようになった。時折思い出したように私の顔を見上げて、何かを訊ねるように「るーい」と鳴く。少し元気が出たようだ。とりあえず満足するまで食わせてやった。

 三日も休ませると、妖精は自分の羽でそこらへんを飛び回るくらいには調子を回復させた。活動が行われるということはその主体の性質が示されるということで、自然と私にもその小さな居候の、人間に沿っていうところの性格らしきものが窺えるようになってきた。
 私が便宜的に「みどり」と呼ぶことにした"それ"は好奇心が旺盛なたちで、あっちへフラフラこっちへフラフラして部屋のなかの品々を眺めて回っては、面白そうな物があると興味深げにいじくりまわしていた。とくにティッシュペーパーがお気に召したらしく、こちらが油断するとすぐに箱を開けて中身を出して、引きちぎったり口にくわえたりしてあたりを散らかしてしまう。何度叱っても聞かないので箱を高いところへ移したが、そうするとみどりは不満げな様子でわめきたててくる。「るーい、るーい、るーい」……うるさくてかなわない。まるでわがままな幼児の癇癪のようだ。

 そんな具合であんのじょう面倒は多かったものの、小妖精「みどり」との騒がしい共同生活が私の暮らしの物理的のみならず精神的な領域にまでいくらかなり肯定的な影響をもたらしたことは、しゃくにさわるがたしかだった。手の焼けるチビスケに気を向けて世話している間、私はみどりが厄介ごとを起こして怒りを催されるのを帳消しにするくらいにたくさん楽しませてもらっていた。名前を呼ぶと「るーい」と声を上げて私の耳たぶをなめ回してくる癖も、慣れればまあご愛敬だった。
 そう、正直に言って、私はこいつに親しみを感じるようになったのだ。みどりはもはや「これ」ではなく「こいつ」だ──名前をつけた対象をモノとして認識し続けるのはむしろ難しい。夜寝る前に自分でも気付かぬうち「おやすみ」と声をかけて、ひとりで赤面したこともあった。そのとき妖精は、寝床代わりにしているティッシュの空き箱から顔を出して不思議そうに私を見ていた。
 まったく、昔はハムスターに語りかける妹に対して感傷的な人間の交流錯覚だと嘲笑していたものだが、ひとのことを馬鹿に出来る筋合いではない。たとえ実質的には一方通行でも、世界に存在する何かと関わり合いをもとうとする意志には、それ自体に、己の心へ光を引き入れる意味があり喜びがある。いまいましいが、私はティッシュ破りの小妖精にそれを認めさせられてしまったのだった。

 また、みどりを家に置いたことで、思わぬ旧交を温め直す機会も得られた。夏が終わっていくらか気候が都合良くなり、彼女の肌の色が遅まきながら常態の透き通ったブルーに変化したころ、私がみどりを世話しているという話を人づてに知った学生時代の友人──例の妖精を飼っていた友人が、久々に電話を寄こしたのだ。私はその友人と約束をして、後日彼と最寄りの居酒屋で杯を合わせることが出来た。そこで妖精の面倒を見る上での相談事をしながら、合間合間に思い出話を挟んでは、愚かしくも輝いていたかつての日々を懐かしんだ。お互いに道は違えたが、こうしてふとした折があれば簡単に糸をたぐり寄せることの出来る距離のままであったことが嬉しく思えた。

 それからまた時が過ぎ、吹き付ける風が本格的に冷気を帯び始めるようになった。みどりはとても寒がりで、私が近くにいるときはたいてい私にすり寄ってきて人肌の熱を拝借しようと狙ってくる。みどりのほうは私の身体で暖を取れていいが、妖精は体温が低いのでこちらはいきなり氷でもひっつけられたようになってとても困る。その年はかなり早めに暖房設備を充実させる羽目に追いやられてしまった。「お前のせいだぞ、分かってるのか」と言ってみても、みどりが返してくるのは空腹を訴える「るーい、るーい」という鳴き声ばかりだった。そのころには私はすでに某乳製品メーカーのヨーグルト部門の売り上げに市内で最も貢献している個人になっていたんじゃないかと思う。

 やんちゃの極みだったみどりの様子が変わったことに気付いたのは、冬は過ぎたが春までまだ一歩だけ届かぬというあたりのことだった。肌の色がまた緑色に近づいていくのは知識としてその前から知っていたので驚くにあたらなかったが、あれだけ羽音を響かせ部屋のなかを縦横無尽に飛び回っては小さな暴君の権勢をほしいままにしていた彼女は、お気に入りのティッシュペーパーいじりもピタリとやめて、ティッシュの空き箱の中でじっとうずくまっている姿が目立つようになった。観察していると、あくびの回数がとても多かった。一日のかなりの割合を睡眠に当てているはずだが、まだ足りないようだった。
 もしや冬眠でも迎えるのかと考えたが、違っていた。頼りにしている本によると、どうやら分裂の前兆らしいのだ。
 容姿は人間の女性体に近い妖精たちだが、本当のところこの種族には雌雄の別はない。いくつかの複雑な条件が過不足なく満たされると、自己の構成組織から若い細胞を少しずつ集積総合し、やがて分身ともいえる個体を一体こしらえる。それを分裂と呼ぶのだが、ようするに子供を産むことに相当する、かなり負担の大きな作業である。とりあえず私は、みどりの寝床を分裂に適した環境に整えるなど、手近なところで可能な支援は尽くしてみた。あの友人に電話をして訊ねてみたが、彼も分裂期の妖精を看病した経験はないという。私は独力でやることをやって、あとは見守るしかなかった。

 日を重ね月を重ね、分裂の時が近づいてくる。もとはかなり痩せぎすな印象だったみどりは極端な速度で肉付きが良くなり、ますます動きが緩慢になっていった。夢うつつをさまよい、私がそばにいるかどうかさえ分からないようだった。目も口も閉ざされがちで、あの独特の鳴き声はすっかり聞かれなくなっていた。
 そうして、春の陽気が窓の霜を溶かすような時期になって、とうとう分裂が始まった。
 がくがくと激しく痙攣しながら、体内に納めていた分身の細胞組織を長い時間かけて排出していく姿は、あまりにも酷く、苦しそうで、見るに忍びない気持ちになった。それでも、みどりが命を賭して生物学的使命を果たそうとするその姿は自然の神々が被造物に与えた悲壮美ともいうべきものが感じられ、目が離せなかった。
 その後、丸まる二時間かけて妖精は自分よりもひとまわり小さい己の似姿を生み出した。新たなチビスケの誕生だった。我が家において第二の妖精となるその分身体は、青とも緑とも付かない、不可思議なエメラルドのような肌の色だった。

 夏が近づくにつれ、その「エメラルド」は以前のみどりを彷彿とさせるように元気な子として日に日に生長をみせていた。ティッシュぺーパーこそ破かなかったが、部屋を飛び回り私に噛みついて遊ぶ姿はたしかにみどりの血肉を受けて成り立った分身そのものといえた。
 しかし、その一方で、母妖精の様子はかんばしくなかった。分裂を済ませて身軽になったことで活動時間は復調したが、エメラルドのように羽を活発に動かすことはなく、窓辺にうずくまってぼんやりと我が子の遊ぶさまを眺めているだけだった。ヨーグルトの消費量は思ったほど上がらなかった。二匹合わせても、分身が生まれる前の約1.5倍。みどりはもう、かつての半分しか食べなくなっていた。
「どうした、チビスケ。元気出せよ」私がそっと指先で背中を撫でてやると、みどりは小さく「るーい」と鳴いて応じてれた。応じてくれたとただ私が思いたかったのかもしれないが、どうだったのだろうか。

 カレンダーをめくる。日付が移る。陽光はじりじりと白く強くなり、再び我が家は焼き焦がれはじめていた。もうすぐ、みどりと私の出会った季節がやってくる。
 みどりは、相変わらず力の入らない姿で時を送っている。ますます食が細くなってしまった。
 エメラルドはといえば、ふらりと外へ出かけることが多くなった。かと思えばまたふらっと家へ戻ってきて、しきりに北の方角へ向かい、あの懐かしい「るーい、るーい」という、みどりと同じ鳴き声をしきりに再現してみせる。なぜだろうか。
 私は本を開いてみた。答えがあった。旅立ちの時が近づいているのだ。
 そもそも、みどりはどういう経緯があって私の家のベランダに行き倒れていたのだろう? いまとなっては正確なところは分かりかねるが、野生の妖精がわざわざ彼女らの嫌う海に近いこの地域にいたのだ。なにか不測の事態があったはずだ。
 妖精は単体でも生存が不可能ではないが、基本的に一定数以上の集団で「村」をなしている種族だ。もしも外敵や自然現象の被害を被って村の構成員が少なくなると、別の村へ移動してその共同体へ入るという生態が知られている。
 みどりも多分、村が崩れて移動中だった「はぐれ者」の一匹だったのではないだろうか。移動を始めても駆け込み先となる村が近くにないため、旅の途中で力尽きて死を迎える妖精の例は少なくないという。みどりも、ひとつ事の運びが違えばそんな末路をたどっていたのではないだろうか。私と出会わずに、あの無邪気な鳴き声を上げながら行儀悪くヨーグルトを食べ散らかすこともなく、ティッシュペーパーで遊ぶことも、分身をこの世に産み落とすこともなく。
 エメラルドは我が家で健康十全な状態に育ち、成体となった。彼女はしきりに北へ向けて鳴いている。その方向に目指すべき「村」があるということだ。

 そうして、またカレンダーがめくられる。
 私がベランダで緑色の肌をした妖精を見つけてからちょうど一年。まるで神様の悪い冗談のように、奇しくもこの同じ日に、みどりは息を引き取った。
 もう起きあがることもできなくなっていた緑色のチビスケは、私が差し出した、薬さじでほんのひとすくいのヨーグルトをなめてから、私の顔をじっとみて、小さい声だったが確かに「るーい」と鳴いてみせた。あの末期の一声にはいくらでも人間側からの意味づけが出来るかもしれないが、あえて私はそれを望まない。彼女は、私の行動に対してただそこに在ることによって応えてくれた。それ以上必要なことなど何もなかろう。
 エメラルドはすぐに旅立った。種族の習性なのか他の理由からか、己のオリジナルであるみどりの死を見届けるためにとどまっていたようだ。彼女は元気よく高らかに、楽しげにすら聞こえる調子で「るーい、るーい」と鳴きながら空へ向けて羽ばたき、雲の流れる彼方へ消えていった。
 薄情なように思うべきだろうか? いや、それもやはりこちらからの勝手な要求だろう。妖精には妖精の内的なルールがあって、彼女たちはそれに従って小さな生命の歌を唄っているのだ。賛美こそすれ、非難などできようはずもない。

 三日後、庭の木陰に作ったみどりの墓に手を合わせてから、私は実家から呼びつけた妹といっしょに冷蔵庫に残された大量のヨーグルトをひぃひぃ言いながら食べていた。あきれ顔をしていた妹は事情を話すと何も言わず付き合ってくれた。
 ヨーグルトの食べ過ぎで体中が発酵したような気分になったので、一息入れようと手を止めてテレビを付けてみた。ちょうど、同県のK市からちょっとしたニュースが報じられていた。
 それは、この地方では非常に珍しい、妖精の「村」の移動する風景が目撃されたという話だった。
 K市はここからちょうど真北に位置する。エメラルドの飛び立った方角だ。
 エメラルドはその村へたどり着いて、うまく合流できたのだろうか。
 今度はひとりではなく、おなじ羽をもつ仲間たちと一緒に旅を始めたのだろうか。
 そして、あの懐かしい緑色の声で、元気よく「るーい」と鳴いているのだろうか。
 そうだとしたら私は嬉しい。私とみどりの想い出にかけて、とてもとても嬉しい。
 みどりのすべてを受け継いだ妖精が鳴き声を絶やさぬ限り、あのティッシュの空き箱は、決してからっぽになることはないのだから。


[Fin.]


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