おともだちの漫画研究者さん経由でよく聞く話なんですが、映画やアニメといった動画映像メディアと漫画では「時間」「空間」の性質がいろいろ違っているそうです。
「映画のような漫画」ではなく、漫画を「漫画そのもの」たらしめている時空間とはどんなものか──ひとつの例として成人向け漫画がものにしている乱交シーンにおける時間体験についてみてみたいと思います。
あ、この手の話題は僕もまだ聞きかじりの状態なんで、研究者諸氏が言ってることをいささか誤解曲解しているかもしれませんがその場合はご容赦ください(^^;;
まずは、こちらのスペクタクルをごらんください。
・資料画像 - A ※クリックすると別ウィンドウで開きます
(引用元:如月群真「染めろ!転校生」;単行本『『Love Selection』収録)
よーするに、こういう風に「ワンスクリーン・ワンカット内であちこちいっぺんに物事が動いている」絵ヅラには媒体によって以下の違いがあるということが言いたいんですね。
▼映像メディア(実写映画、アニメ)だったら……
どこを見ていても画面内の時間は全体で一様に動き流れて、次のカットへ移る
▼漫画では……
目の焦点を合わせたところ、つまり部分的な空間の時間だけが解凍され、また別の箇所へ焦点を移せばそこだけが解凍される。読んでいる者が自主的にページをめくらないかぎり、全体の時間の流れはそこに待機している
上の説明だけだと分かりにくいかもしれないので、具体的にみていきます。
つまり、
【映画、アニメなど動画の場合】
部分と全体の時間が同じで強制的に流れていくので、たとえばわずか数秒間の状況だったら、遠く離れた二点で起きていることを同時に認識するということはほぼ不可能です。見逃し、聞き逃しが必ず出てしまう。
だから(特殊映像効果を施さずに)素直に撮影された映画を我々が観る場合、こういう多元的スペクタクルにおいて個は抑えられ「群れとしての壮観さ」を体験することになります。さもなくば、観客は1点を注視することで他の周囲の情報を犠牲にするというトレードオフが必要です。
こういう風に時間経過を強制することでぐいぐい先へ先へと引っ張る性質は厄介ではあるけれど、うまくすれば「有無を言わせぬ、怒涛の」と評されるような感動を演出する基盤を映画に与えてくれます。やり方次第ですね。
さて一方、こちらが本題なわけですが、
【漫画の場合】
その他、画面内の全オブジェクトに同様の視認が可能。
てな具合に、漫画ではフレームに詰め込まれた時空間が視点にあわせて局所的に解凍される(そこだけ動き出す)ので、じゅんぐりに部分から部分へと見て回ることが出来ます。
ということは、「一画面内において、離れた位置で同じ瞬間に動いている個々をすべて漏らさず把握できる(しかも何度でも任意に反芻できる)」という不思議な体験があるわけで、一種のパノラマ鑑賞のような性質をもっているのだといえます(ちなみに「パノラマ」という名詞はギリシャ語で「すべて」「見る」という意味の言葉をもとに18世紀スコットランドの画家がこしらえた造語です。余談)。
僕たちが漫画を読むときには、大勢の声をいっぺんに聞いてもすべて聞き分けられたという聖徳太子の伝説みたいなことが可能なのです。
もちろん、個別の吟味ができるだけでなく全体をゲシュタルトとしてひとまとまりに見ることも両立可能なわけで、ともかく基本として時空間のコントロール権のかなり深いところまで読者にゆだねられているというのは漫画というメディアが秀でて親切なところでしょうね。
さて。
今回のサンプルはエロ漫画でしたが、ここで述べているのは、漫画そのもののもつポテンシャルの問題です。
たとえば一般でも、有名どころでは手塚治虫が描いていたような「いろんな人間がひとつの場所に詰めて喧々諤々している俯瞰図」などが同じ性質を利用しているものといえます。最近だと少年マガジン連載中の『スクールランブル』で大勢の生徒達が体育館にお泊りしたエピソードでそういう「ひしめきあう同時の個をすべて把握できる」図が描かれたのが記憶に新しいです。あれはすごい手塚チックでしたよね(笑)
というわけで、漫画というメディアはそれ独特の読み方を許す懐があるみたいなので、それを大いに解明していってもらいたいなーと研究者諸氏に期待を寄せることで本稿の〆とさせていただきます。
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つまり『おともだちのエロ漫画研究者さんは乱交ものがお好き』ということでよろしいでしょうか?
それともメガストアが好き?
俺はゴージャス宝田が好き!
>ということでよろしいでしょうか?
いえ、よろしくないです(笑)
その人は漫画全般におよぶ評論家さんなので。エロ漫画にも造詣が深い方ですけど。
今回、乱交シーンを例に使ったのは僕の勝手なチョイスです。
ゴージャス宝田先生いいですよね。キヤノン先生ーっ
Posted by: みやも(管理人): 2008年02月25日 03:08はじめて失礼いたします。
ここで挙げられた特徴というのは、何も漫画というメディア特有のことではなく、「一枚絵」として描かれている静止画像(写真まで含めて)に等しくいえることではないかと思います。無論、フキダシの有無などの違いはありますが。
実際、美術史の研究でも、絵画一枚の中で見る人が自由かつ自然に「順番」と「焦点の広さ/狭さ」を作りながら、「物語内の時間」を紡いだり止めたりして絵画を読み解いていく、という特徴が研究の主題として取り上げられることがあります。
どうでもいいですが、如月群真先生はよいですね。
Posted by: pen: 2008年02月27日 22:44>>penさん
コメントありがとうございます。
ご指摘の点については、たしかに空間が時間を内包するという性質は静止画全体にいえることで、penさんの方でもおっしゃられるとおり美術研究にいろいろと範を取れるトピックだと思います。
ただ、その静止画メディア全体のうちで、フキダシをはじめ擬音、漫符(効果線)などダイレクトな動作感を導く表現を多くともなう=「そこが動いている度合いがひじょうに直接的・実際的になる」ものとして発達した漫画分野に特に注目してみたいと考えました。その発達の度合いについて、上で「漫画を漫画たらしめているもの」と呼んだ次第です。
そして如月先生は本当によいです(笑)
Posted by: みやも(管理人): 2008年02月27日 23:12