ひとは時と場合によりコンディションが違います。
たとえば高血圧で苦しんでいる人間に「めちゃくちゃ美味しくて塩分の多い料理」を食わせるのが下策であるように、また低血圧でふらふらしている人間に降圧剤を飲ませるのが危険であるように、「絶対的に良い料理」「絶対的に効く薬」という万能の効能をもった摂取物はありません。また、薬には必ず副作用があって、差し引きしてトータルで健康を上向かせることができるかどうかが問題になってきます。
これはアニメやゲーム、漫画、映画、小説、音楽を他人にすすめるときにも同じようなことがいえるでしょう。
ひとの心は、そのときに必要としていない「物語の栄養分」を無理に与えられても、薬にならないどころか毒にすらなってしまうおそれが出てきます。
でも、日々をすごしていくうちに、いつかその物語が必要なタイミングがくるかもしれない。あるいは一生、必要ではないかもしれない。そこらへんを取り違えて、おすすめした作品が相手に通じなかった場合に「これの良さが分からないなんて!」と嘆き蔑んでもしょうがないわけです。
ある人はリアルの難儀な仕事で凝り固まった思考の疲れをときほぐすためにやわらかな日常を描いた作品が必要だし、別のある人はこれからリアルで大きな目的へとりかかるためにテンションを上げてくれる熱い作品を必要としているでしょう。そして逆に、本人は欲しがっているけどそれ以上その系統の作品に耽りすぎると精神的に害が出そうな場合にストップをかけたり、本人は嫌がっているけど負荷の高い作品を施さなければならないときというのもあるんですね。最初にあげた塩分や薬のたとえで考えれば分かると思います。
そこらへんの流動的な良し悪しは、作品よりも、人を見なければ分からないことです。単純に趣味の合う合わないではなく、目の前の相手を生きた人間として、その生活に思いを致すことができるかどうかが鍵になるのです。
だからオススメ上手な人というのは、良い作品を選ぶ能力を持った人というよりも、薦める相手がそのときどんな成分をふくむ作品を必要としているか診察できる、処方の判断力をもった人ということではないでしょうか。
ときとしてマニアのおしつけ布教が敬遠されるのは、相手のコンディションを度外視して「絶対的に良い作品」があると思い込んでいるのが迷惑だからというのも理由のひとつかもしれません。
ちなみに僕はといえば、さいわい、身の回りに処方上手なともだちが何人もいてくれるので助かってます(笑)
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