ご存じの方はご存じと思いますが、近年、主にネットのアンダーグラウンドな領域では、一般コミックから同人誌に至るまで様々な漫画出版物のスキャン画像データが 活発に放流されているという状況があります。
そこで、もちろん法的には完全に黒いトピックであることを承知の上で述べるのですが、そろそろ「同じ漫画の原稿をPC画面上で読む時と紙媒体で読む時の印象(視覚情報の全体的把握)の相違」について真剣に検討されてもいいだろうと思いまして、以下を記しておきます。
例えばここに、まず最初に一般コミック週刊誌の早売り分のデータを共有ソフトで落としてチェックし、次に発売されてから実際に購入してもう一度読む、という人がいたとしましょう。これは果たして単なる「再読」なのか?
一応、PC画面上のグラフィックでも紙媒体でも、同じ作品の同じビジュアルですからコンテンツ的には同一のものではあります。けれど実際のところ、モニタで表示される画像の連続を見る「それ」と、手にとってアナログ紙媒体をめくって読む「それ」では、それぞれ確実に異なる体験を得ていると思うんですね。
僕自身まだうまく考えをまとめきれてないんですが、具体的にはハードウェアの性質にかかってくる問題から、デジタル原稿とアナログ原稿にはけっこう根本的ともいえる印象の違いがあるような気がします。
■画面サイズの違い:
一覧性に差が生じる。目を動かす労力の違い。
■紙色の違い:
主に雑誌からの取り込みの場合。たとえば、四大メジャー少年誌
*1
はどれも紙に色が付いている。一方、スキャンデータはモノクロ化して取り込んだ画像がほとんど。色も刺激である以上、情報に変質が起きていることになる。紙媒体でも雑誌掲載時とコミック収録時の印象に違いがあるよね。
■ページあたりの部分的な情報差:
実際の本は綴じの関係でページの右側と左側に読みやすさ、読みにくさが生じる(ふつう綴じに近いほど詰まった感じで読みにくい)。
描き手はそれを計算に入れて画面構成しているのだが、PCモニタ上では全体が平板に表示されるのでそれを体感しづらい。画像を1ページごとに読んでいく場合はなおさら。
■めくりの頻度の違い:
おともだちのI氏からの指摘で気付いた項目。
ページをめくるときの体感速度と体感負担(面倒くささ)は、実はデジタル原稿の方が重い。いうなれば「ページ単位の重量感」の違い。
これが蓄積するため再読性に大きな差が生じる。相対的に、紙媒体の漫画はページ単位でも作品単位でも非常に気軽に読み直しができる特徴がある。
■右→左への流動性:
本の開きの方向と文章のルール
*2
に関わる構造によって、日本の漫画はコマ単位のキャラ配置からページ全体の画面構成に至るまで、右→左方向に流れる"視線の力学"を発達させている
*3
。
デジタル原稿の場合、画像が一面的に表示されるためこの性質が切り捨てられる傾向にあり、流動性が弱まることになる
*4
。
この点を指摘してくれたI氏の言葉を借りると、「人気webコミック作家の漫画が雑誌に載っていても面白いとは限らない 」理由の一部はここにあるといえる。
■平面と曲面の差
Y氏からの指摘。モニタは固定平面だが、綴じられた紙媒体では開くとき、めくるときに曲面化する。
■見る角度の違い
これもY氏からの指摘。読むときの目対原稿の角度は、アナログの場合けっこう斜めになる。(焦点の収束するコマを中心に、本を動かして傾けるため)
反対にデスクトップPCの場合は不動の画面に対してほぼまっすぐ向かう。ノートパソコンは斜めになりやすいだろうが、やはり大体において角度が固定されたままであり、アナログとの感触は異なってくる。
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以上、思いつくところとお友だちに指摘されて気付いたところを列挙してみました。
きっと他にも色々あるんじゃないかな。
こういうことが現象として確かに存在してる以上、法律上の良し悪しの判定とはまた別に、その効果に考えを致しておかないと、表現物の可能性追求に片手落ちが生じるんではないかと思った次第なのであります。
(なお、別にWinnyやなんかによるスキャン漫画のファイル共有を肯定的に認知しろなんて言ってるわけじゃないんで、そこはお間違えなく(^^;;)
確か、映像系でも似たような話題があったように思います。
映画が反射系の光源なのに対して、ビデオは発光系の光源であるため、スクリーンで見るのと、ビデオで見るのとは印象が違ってくるという話でした。
ああっ、なるほど。たしかにビジュアルが主体の分野で、「同じコンテンツの媒体違い」という問題では映画が先行してますよね。
しかも音響という要素が入ってくるしなあ。
今ごろこんなハナシしてんのか
Posted by: 名無しさん: 2005年02月11日 20:14>名無しさん
まだ一般大多数に認知されてるトピックとはいいがたいですし、スキャン漫画という題材が題材ですので分かってる人もあえておおっぴらな場所で言語化してないんじゃないかと思いまして(^^;;
たしかに今さらではあるんですけどね。
見開き左上のコマが、ページをめくった時に最初に目に入るコマとして、かなり重要な役割をしているとおもうんですが、パソコンで読むと、その役割が消えてしまいますね。めくるという動作がなくて一気に見開きが出てきますから。
めくりに関連して、ページをめくる動作と、漫画内の武器を振るとか扉を開けるとかのキャラの動作を一致させて、一体感を高めるという演出がわりと漫画ではなされていますが、これも無くなっちゃいます。
上に上げてある問題も、それぞれ尤もで、本とパソコンではかなり別の読書体験になってるのは間違いないと思います。
いわんや、ケータイ漫画をや。
最近だとケータイ漫画から出版本へ逆(?)輸入するケースもあるんですよね。
「ケータイで読ませる漫画」「出版物で読ませる漫画」「両方を越境させる漫画」ってのは極めていけば読み方、描き方のアプローチもそれぞれ微妙に違ってくるでしょうから、そのへん早いところ識者に検証してもらって、より読みやすい・描きやすい方法論が生まれていってくれればなあと願っています。
時代も技術もどんどん進んでいくので、わりと急務なんじゃないかという気が。