藤田センセの絵には健康的なエロスがあるなぁ(笑)
『暁の歌』
『からくりサーカス』第31巻
『餓狼伝』第15巻
以下、それぞれの感想など。
暁の歌 (藤田和日郎短編集)
作者 藤田和日郎
発行 小学館 少年サンデーコミックス
価格 390円(税抜)
もはや御大といった風格すら出てきた藤田センセが、ありあまる作劇能力をいつも通り徹底したエンターテインメントのために費やして織り上げた上質の短編集です。
昨今、煮詰まったメンタリティを看板に掲げる少年漫画家は山ほどいますが、そのぶん健全な精神に踏みとどまったまま人間の狂気や暗黒へ踏み込んで遊びを見せてくれる「オトナ」な視点の作家というのは希有になりつつあるように思います。
藤田センセは、確実にその希有にして貴重な漫画家のひとりであると評して過言ではないでしょう。
本巻の収録タイトルは以下の計4編。
銃弾をかわし一瞬のうちに敵を倒す格闘術の使い手である老人が、自分のデータをもとに生み出された米軍秘蔵の兵士と対決する「瞬撃の虚空」。
異端の男が暴虐な女王の操る超兵器の攻撃を防ぐため、陰で人知れず命を賭ける異色作「空に羽が…」。
滅亡の危機に瀕した地球で、ひとりのヘタレ高校生が宇宙を股にかける武器商人の女性からトンデモな商品を買いまくるSFコメディ「ゲメル宇宙武器店」。
美食追求のために国民を苦しめる王に復讐を誓った娘が、毒に身を浸して自分を喰わせようとするアラビアン・ファンタジー「美食王の到着」。
リベリオン好きとしては「瞬撃の虚空」も捨てがたいのですが、あえて白眉を挙げるとすればやはり「美食王の到着」でしょうか。
『からくりサーカス』で培ったショー的演出をさらに舞台劇の方向へ押し広げ、漫画の世界に戯曲の方法論を持ち込んでいます。これが良い具合に物語からカニバリズムの色を抜いて、不快感の全くないお伽噺然とした絵面を展開する役を担っているのです。
さらにプロットには読み切り短編とは思えぬヒネリがかかってある種のミステリ的な趣まで加えられており、単純なジャンル分類を許さぬ内容に仕上がっています。
というか、こんなご託を百万言並べ立てるよりも、実際読んでクライマックスの見開き絵のインパクトでひっくり返るのが一番なんですが(^^;
はっちゃけてるなぁ、藤田センセ。
からくりサーカス (31)
作者 藤田和日郎
発行 小学館 少年サンデーコミックス
価格 390円(税抜)
んでもって、上で同じく藤田和日郎センセの新刊。
前々巻でとうとうしろがねとナルミが再会──そして本巻では、感情を活かしている側と抑制している側の相克を、連載の序盤とは逆転した構図で描くところまでたどり着きました。長い長い旅を経て、物語がまさに折り返し地点を越えたことを読者に実感させるこのドラマツルギー。いやはや、本当に凄いもんです。
また、『からくりサーカス』では、藤田センセのテキスト面での実力にも気づかされます。劇中で苦悩するしろがねの哀切に満ちたモノローグはほとんど演劇の脚本か本格的な文芸作品の調子で、「この先生そのうち小説でも書き出すんじゃなかろうか」と感じ入ってしまいました。
この先も楽しみです。
餓狼伝 (15)
作者 板垣恵介
原作 夢枕獏
発行 講談社 アッパーズKC
この漫画家さんは消化試合でも濃度を下げないのだなぁ、とコマのすみずみまで染み渡っている板垣テイストを味わってニヤニヤしてしまいました。あと、刃牙はけっきょく最大トーナメントがピークだったのだという事実を再確認。
追記:
なんでも『餓狼伝BOY』のガイド本で板垣氏いわく
> 『これじゃあ今の文七より強いじゃないか』
> なんて矛盾が起こっても構わない。
> 面白くさえすれば読者は納得してくれるだろうと。
とのこと。
ああ、やっぱり論理的整合性など板垣イズム的娯楽の前では路傍の石ころ程度のものなのだ。うひぃ。